|
灰色うさぎの物語 番外編
「おや、君がうわさのうさぎですね。」
賈充が屈んで、足下のうさぎを抱き上げた。
うさぎの方も、挨拶をするかのように耳をぱたぱたと動かす。
「可愛い顔だちですね。毛の長さも、なんだか見たことのない長さですしね。なんにせよ珍しいですね。」
話し掛けても答えが戻ってくるわけではないが、ついつい話し掛けてしまう。
「どうです、いまお菓子をもっているんですが、お茶でもしませんか?」
うさぎは解るのか解らないのか、それとも「お菓子」という言葉にのみ反応したのか、目を細めて頷いた。
賈充が庭園の石の上に腰をかけ、懐からお菓子を出す。
「頂き物ですみませんがねえ。美味しいと思いますよ。」
うさぎはぽりぽりと、その落雁のようなお菓子を囓る。
満足そうに頷きながら。
「おや、美食家ですねえ・・・・」
はっきりいって、妙な光景である。
司馬昭のように、そこらへんでお菓子をやる人間はいる。
司馬師のように、実は誰も見ていないのを確認してからこっそりやる人もいる。
だが、こうして並んでお菓子を食べる人間はあまりいない。
しかもそれが賈充と来れば・・・。
「なんか凄い光景だよな・・・」
「しっ。目をあわせちゃいけません!」
こう言ってみな、見て見ぬふりをし、足早に通り過ぎる。
だがそんなことは全く気にせず、一人と一匹は、優雅に午後のお茶を楽しんでいた。
このうさぎが根性悪というのは、鍾会から散々聞いている。
とにかくもの凄く煩く言うのであるが、他の人からはいい話しか聞かない。
いくら賈充でも、何となくわかる。このうさぎ、鍾会が嫌いなのでは?ということ。
ただ、悲しいかな、鍾会の場合の裏表は、宮廷内で超有名。知らない人は居ない。どうかんがえても裏を感じさせる人間なのだ。
うさぎはその点、賢い。
その裏を、鍾会にしか見せてないのだから。
勝者は必然的に決まっているのである。
「見かけって重要ですね。まあ、士季殿のように有名人になってしまえば別ですけどね。」
ついつい話し掛けると、うさぎもうんうん、と頷くようにしたのでついおかしくなって、笑ってしまった。
「なに、人の悪口言ってるの?」
いきなりの 声に振り向くと、鍾会がいた。
「気持ち悪い。うさぎなんかと語り合ってる公閭殿なんて、なんか不気味。」
「何がどう不気味なんです?」
「得体の知れない不気味さ。」
ふふん、と鍾会が嗤うと、賈充はもっと得体の知れないことをしてくれた。
うさぎをそっと 持ち上げて、耳元に囁くように。
「おや。・・・ほら、うさぎさん、あなたのお兄さんですよ〜。いやなお兄さんですね〜。こうなっちゃいけませんよ〜」
「は?」
賈充の言葉に、鍾会は怪訝な顔をした。
「誰がその畜生の兄だって?」
「あなたですよ。それに、畜生だなんて失礼な。仮にも皇帝陛下のご学友ですよ。・・・ね? うさぎさん。」
うさぎはにやりと笑って(注:鍾会視点)頷いた。
「ご・・・ご学友?!」
「そうですよ、昨日一緒に何かを読んでいるのを、私は見ました。」
「・・・・・・・」
それは、ただそこにいただけじゃあ・・・と言いたかった。
言いたくてたまらなかった。
「あ、でも寝食を共にしているって事で、恋人の方がいいですかね?」
「なっ・・・・!!」
「ほらほら、うさぎ相手に大人げないですよ。」
賈充はにやにやして続ける。
「それに、あなたに似てますよ、このうさぎ。」
「ど・・・・どこが!!」
「えー? ・・・何となく、あなたと血縁ありそうな・・・というか。」
「じゃあなに、兄上から見てもそのうさぎは弟って訳?」
「いえ。稚叔殿とは違います。」
「だいたい、その根性悪のうさぎと私の、どこが似てるのだか!」
「・・・今、ご自分で仰ったでしょ。あーあー、ほら、そんなに毛を逆立てて怒らない。益々似てますよ。」
くす・・・と賈充は笑った。
「嫌な笑い方。」
「そうですか。悪かったですね。」
そう言うと、うさぎを押しつけるように、目の前につきだした。
「私は別に用がありますので、このうさぎ、陛下に届けてあげてください。」
「な・・・なんで私が!」
「お兄さんだから。」
はい、と渡し、賈充は裾を叩きながら立ち上がった。
「ではまた。一緒にお茶しましょうね。」
そう言ってうさぎを撫でると鍾会には一言もなく、賈充は立ち去った。
「な・・・なにあれ! 気持ち悪いっ!!」
うさぎはにやにやするように目を細めた。
結構人が行き交う場所でうさぎを押しつけられたから、放置するわけにもいかない。
「まったくもう!!」
鍾会は怒り狂いながら、それでも律儀にうさぎを届けに、皇帝の部屋へと向かった。
「うーん、可愛いですね、流石、人気者だけあります。」
賈充は一人でぽつりと言った。
「でも、所詮は動物ですからね、私は・・・・」
ちらっと視線を別に泳がす。
そこでは、一人の若い女官がもたもたと自分が落としてしまったらしい耳飾りを捜していた。
見たことのない、可愛らしい顔をした若い子である。
「こちらに落ちてましたよ。」
賈充はすかさず拾って、彼女に渡す。
「まあ、有り難うございます。」
「見ない顔だけど、最近こちらに?」
「はい。」
若くて可愛い女官の顔を見て、賈充もにっこり笑い返す。
少し顔を赤らめて俯く彼女を見ながら、一人、満足げに頷いた。
・・・やっぱり人間が一番ですよね。
おわり
ウチの賈充は若い女が大好きです。正解は「人間が」ではなくて、「女の子」ですな、多分。
そして、何故かもてるコツを知っているのだ。
賈充とうさぎの絡みが見たい、という方が数人いらしたので書いてみましたv
ちなみに、うさぎにお菓子をやってはいけませんよ。
NOVELへ戻る
|