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灰色うさぎ 超番外編 西方の祭
なんか、きょうはみんないそがしそうだよ。
なんか、ちがうよ。
うさぎがそう思っているかはわからない。だが、めまぐるしく動き回る周囲に邪魔にならないように、部屋の隅にある自分専用の籠の中に、ちょこんとおさまってた。
鍾会が来れば、きっと意地悪をしに出てくる。
司馬師が来れば隠れる。
司馬昭か炎が来たら、お菓子を貰う。
賈充が来たら、お茶に連れ出して貰う。
・・・が、いつものパターンなのだが、今日は忙しく、誰も相手にしてくれなさそうだ。
うさぎは自分で籠から出て、廊下の方へ出ていった。
曹髦はその後ろ姿に気がついたが、いつもそうやって散歩に行くと、じきに戻ってきたので、気にすることなく見送った。
うさぎは廊下をちょこちょこ歩いている。
うろついていると、たいてい気がついた人が「かわいい」と言って何かくれたりするのだが、その日に限って誰もいなかった。
お腹が空いているわけでは無い。
だが、どこか寂しかった。
きょろきょろするが、本当に誰もいない。
仕方がないので庭の方へと出ようとしたときに、いきなりひょい、と抱き上げられた。
「・・・元気か?」
薄暗い声に、思わずびくりとして振り返る。
自分を抱いているのは、何とあの司馬師だった。
一気に全身の毛が逆立ち、身体は震え、涙目になる。
「なんだ、お前。その態度は。・・・ふふふふ・・・恐いのか?」
必死でぴるぴると耳が揺れるほど、首を横に振った。
恐いなんて言った日には、余計に恐い目に合わされる。それが司馬師。
「折角、可愛くしてやろうと思ったのに。・・・ん? どうする?」
脅迫するような、だがあくまで優しく話し掛けられたうさぎは、司馬師のもう一方の手を見た。
そこには、赤と緑の紐と、そして、何やら小さな赤い帽子のようなものが握られている。
たらーり・・・冷や汗が出た。
そんなとんちきな格好をさせて、何をしようと言うのか。
だが・・・もしかしたら、お菓子をくれるかもしれない。
そう思って、うさぎは我慢をした。
首に、その紐がリボンのように結ばれ、頭に三角帽子を被せられる。
その帽子の先には、白いボンボンがついているのだが・・・。
「これは、西の方の何やら宗教の祭りの格好なんだ。」
司馬師は楽しそうである。
だが、うさぎは恐かった。・・・・特に、首に紐を結ばれるとき。
そのままきゅーーーーっ・・・・っとされそうで。
「ん、これで可愛いぞ。・・・ほら、褒美だ。」
司馬師は、懐から甘い砂糖菓子を出す。そして、目の前においた。
「お前、食い意地張ってるな・・・・。」
がっつくうさぎは、食い意地ではない。
司馬師からのプレゼントを無碍にしては、後で何をされるかわからないから、がっついているのだ。
そんなことも知らない司馬師には、ただいやしいうさぎに見えるのだが。
でも、かわいい生き物が夢中で何かを食べる姿はかわいいものである。司馬師も、柄ではないがそういうのを見て心をいやしたいとどこかで思っているのかもしれない。
「さて。・・・みなの邪魔にならないように、君は陛下の所へ帰るんだ。」
食べ終わって口の周りを拭いていると、そう言われ、ふたたび抱き上げられる。
「だ・・・大将軍、それはなんです・・・?」
「西方の祭りの衣装だそうです。折角なので。」
「ん?」
「その祭りは今日なのですよ。」
言うと、にっこり笑ってうさぎを曹髦の前に下ろす。
うさぎは曹髦に駆け寄った。
・・・か・・・・かわいい・・・・かわいすぎる・・・・
ふかふかの灰色の毛に、つぶらな瞳。そして、かわいい帽子を被せられリボンを結んだうさぎは、確かにかわいかった。
「ありがとう、大将軍。」
「いえいえ。」
にーーーっこり、と司馬師は笑い、そして曹髦に約束させた。
「でも、それを私がした、とは仰らないで下さいね。」
曹髦は少しだけ気になった。
この帽子はどこから持ってきたのだろう? まさか、大将軍が自分で作ったとか?
だから内緒にして欲しいとか?
あの神経質そうな司馬師が、自分でちくちくと縫い物をしているところを想像し。
・・・ありえない。絶対に、有るわけ無い!!!!
曹髦はそう思ったものの、しばらくは夢の中で、縫い物姿の司馬師に悩まされた。
そして、実はうさぎも。
一人と一羽は、しばらく悪夢に魘され続けたのだった。
しばらくの間、うさぎはその帽子とリボンを付けたまま、曹髦につれ歩かれた。
鍾会以外の誰もが「かわいいー!!」と誉め、真夜中の悪夢はともかく、いい気分になっていた。
ただ、誰もが不思議だった。
一体誰が、あの帽子とリボンを付けたのか。
だがそれは、曹髦は決して、言わないのであった。
で、縫い物をしていたのは誰かと言うと。
「一体、あれ、何に使うのかしらね・・・?」
王元姫が、司馬昭に言う。
「この前、お義兄様に頼まれたのですが。・・・これ。」
王元姫の手のひらにあるものを見せる。
それは、赤い小さな帽子。そう、うさぎがかぶるのに丁度良いくらい。そして、それを最近、司馬昭はどこかで見た・・・。
「何に使うのかしらねえ。まあ、いいけど、私、縫い物苦手なのよね。困っちゃったわ。」
「・・・・・・・・」
「まあ、小さいから頑張ってみたのですけれど。・・・でも、一体、何に使うのかしら、これ?」
「・・・・・・・・」
それはうさぎの帽子。
・・・・うさぎに衣装を着せていたのは、兄上だったのか・・・・
司馬昭は思いきり脱力したのであった。
おわり
クリスマス作品でした。
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