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灰色うさぎの物語 戦争勃発しない編 PartⅡ 
時間は少し戻ってここは成都。
姜維が休暇?(多分むりやり取らされた休暇)で戻っていて、嬉しい娘達である。
麻婆豆腐を囲んでの夕食会だが、娘達はそれよりうさぎの世話らしく、まだ食卓につかない。
「ああ、郭淮と会わない日々は平和だなあ・・・!!」
「奴もそう思ってるぜ、絶対に! しかも最近病気らしいぞ。・・・デマかもしれんがな」
姜維の言葉に夏侯覇が答えると、姜維は不思議そうな顔をした。
夏侯覇が一瞬心配そうな顔をしたからだ。
「・・・なんだ? お前は会いたいのか?」
「いや、決着を果たしてなくてな。・・・・くそー!!!」
夏侯覇は呟く。
「春黎は俺のものだったのに・・・」
「・・・春黎って?・・・まさか、女の取り合いで負けて逃亡ってのは・・・本当だったのか?」
うわー、まじかよという顔で姜維が夏侯覇を見るが、気づかずに続く。
「・・・ある意味、本当だ。・・・ああ、あのつぶらな漆黒の瞳、すんなり伸びた美しい肢体、美しい栗色の髪・・・!!」
夏侯覇はうっとりと何かを思い出しているようで。
「魏の種馬と呼ばれたお前が負けるって、よっぽどだな・・・」
「誰が種馬だ!! お前、娘たちの前でなんつー下品なことを!!」
「いや、ほら、誰も聞いてないし」
娘達は、うさぎに夢中である。
「で、そんなにいい女だったのか? 栗色の髪とか珍しいな?」
「申し訳ないが、彼女ほどの者には出会ったこと無いな。・・・はあ、無理にでも連れてくるんだった・・・」
深くため息をつく夏侯覇に、姜維は言葉が見つからない。
そこまで好きな女を郭淮に寝取られたのか・・・。
「でもなあ、結局伯済のものにもならなかった訳なんだ。・・・いい女ほど気まぐれなんだな」
「へえ? 結局どうしたんだ? その女は?」
「今頃遼東の左遷先で公休殿がメロメロになってるはずだ。・・・ああ、なんか思い出したらむかついてきたな!!」
夏侯覇は語り出す。
幼い頃、西の方から来たその「彼女」を自分が育てたようなものだと。だが彼女には郭淮も目をつけていて、そしてお互い奪い合いになってしまったと。
だがしかし、彼女はどちらも選ばなかった。仲裁としてそこに通りかかった諸葛誕を選び、ついていってしまったと。
「・・・育てた?・・・・また気の長い趣味だな・・・」
姜維があきれたように言う。確かに、魏の上流階級にいた夏侯覇にそのような、才能のある少女にいろいろ仕込んで将来自分好みの女に育てるとかいう趣味があってもおかしくはない。おかしくはないが・・・・
「彼女がいれば、戦場だって五倍は楽しいはずだったのに・・・」
「・・・・戦場??」
姜維が聞きかえす。まさか、「彼女」って・・・・
「聞きたいのだがな、その彼女は・・・・」
「あれ、言わなかったか? 西域の汗血馬だよ、春黎は・・・」
姜維は唖然とした。
・・・馬?・・・馬なのか?
「当たり前だろうが! ・・・結局、公休殿がここにいても争いになるだけだし、俺が貰ってやる!って持って行っちゃったよ!! というわけで、伯済とは決着がついてないんだ。・・・な、腹立たしいだろ?!」
「悪い。お前が話している時点で絶対に人間の女だと思ったよ。・・・俺は悪いことをした、郭淮に」
そうだ、あの郭淮が夏侯覇と女の取り合いなんてそんな事するわけないだろうが。
奴はそんな奴じゃない!!
・・・俺が馬鹿だったよ。
「・・・なにげにむかつくんだがなあ?」
夏侯覇が言うのも、姜維はスルーしながら出された食事に手を付けた。。
そして、娘達が囲んでいるうさぎ。
彼が数ヶ月前に連れてきた可愛い白と茶のうさぎも、今では当時の倍くらいの大きさになり元気いっぱい。
「大きくなったなー。」
そして、それを抱っこしている三女に対し、心の中だけで「逞しくなったな・・・」と。
動物嫌いの彼女を一般的な動物になれさせる、という教育はどうやら成功したらしい。・・・もっとも、姜維は何もしていない。全ては妻と娘達の努力なのだが。
だが、世の中の常として、男はそれで教育を自分がしたつもりになるのである。
そして、お互いがそれに疑問を持たなければ破綻することはない、それが大人の世界というものだった。
それは蜀でも魏でも共通事項である。ついでに、姜維でも司馬昭でもそう変わらないという一面だったりする。
そして。
「君たちもパパとママに会いたいですか~?」
姜維の三女がそう言いながら、白と茶色の、二羽のこうさぎを抱き上げた。
「会いたいですよねー? ではわたくしが、うさぎ村に連れて行って差し上げましょうねー。」
「・・・どうやって?」
見ていた姜維が、そこでやっと声をかけた。
「仲権おじさまがつれていってくれるのでーす!」
「はあ?」
てか聞いてねーぞおい!
「いいでしょう? うふふふ。デートなんでーす 」
姜維は、机の下に伸びている夏侯覇の足を蹴飛ばす。
「・・・仲権、ちょっと別室でゆっくり話し合おうか・・・・」
姜維の目は、北伐へ出兵するときよりもギラギラしていた。
「デートは冗談だぞ、本気でもあと5年は待ちたいな、幼女に興味はない」
別室に入るなり言われる夏侯覇の一言に、姜維は頭を抱える。
問題点はそこだけじゃないだろう?と。
それに年頃になったらなお、お前とは一緒にどこも行かせんわ!と。
「ただでさえ、今、陳泰と郭淮がなんか不穏な動きをしてるだのしてないだの聞いてるんだ、国境なんて・・・」
ここで不穏なのはお前の方だよと突っ込むことも出来ない。
「大丈夫だ。一日であそこまで来られる魏軍なんていない。最悪、逃げるだけなら何とかなる! 得意だ!」
そうだな。君はそうやって蜀まで来たんだっけ・・・今度はまちがって呉に行かないようにな。
あれ、しかもその時って追おうとしたのが郭淮と陳泰じゃ・・・
何となく気になったが、ま、いっか、で済ませることにした。そうそう、多分今なら大丈夫!という根拠のない安心感。
「でも、連れ出すなんてどういうつもりだ?」
「言葉通りだよ。うさぎの子供達の成長を親にみせてやりたい」
「・・・・・・」
姜維が何かを言おうとすると、夏侯覇が寂しげに呟いた。
「俺は子や孫の成長を見ることはもうかなわん。・・・だから、な・・・」
「・・・・・・」
姜維は頷いて、夏侯覇の肩に手を置く。
「そんな顔するな。お前の子を自分の子のように思ってる。それだけでも満足だ」
・・・自分の子のように思ってる子を「あと五年」とか言うヤツの言うことは、信用していいのかいかんのか。
なにより、別に娘は連れて行かなくてもいいんじゃないか?とか、思うことはあった。
少なくとも、夏侯覇は危険な奴ではあるかもしれないが危ない奴ではない。だが、国境は危険地帯で危ない。
「ダメだ。子供と遊びたいなら・・・そうだな、費恭と行け!!」
「ええ?!・・・まあ、費恭ならいいか。可愛いし、見栄えもする」
「やはり一人で行け!」
「ああ、すまん、つい本音が。・・・費恭を連れて行かせてください!!」
どうしても一人は嫌なあたり、実は相当の寂しがりやさんなのかもしれない。
「でも仲権が国境・・・とかってやっぱり目立つ。今回はやっぱりうさぎ村は諦めろ」
「大丈夫だ。男と一緒ってところで誰も俺とは思わない」
自信を持って夏侯覇は言う。
つまり、女と一緒だったら間違いなく夏侯覇ということになるわけか。お前、自分の国でどんだけ何をしてきたんだ?
・・・・と、姜維は言いたかった。
だが言わなかった。
やっぱりコイツと思ったけれど、言わなかった!
「・・・行くときは道に迷うなよ、方向音痴」
「大丈夫! この前、ちゃんと印をつけてきたからな!」
姜維はもう、何も言わなかった。
そして後日、どうにか費恭も納得させる。
「なんで俺が行かなきゃいけないわけ?? どういうことだっ!!」
「あの危険なのが国境で女性問題でも起こしたらどうする? お前は大事な監視役だ!」
「知った事じゃねえ!」
「私の娘が危険な目にあうのと、自分がその身代わりになるのとどっちが良いか?」
姜維の言葉に、費恭はうなった。
そりゃあ、姜維の娘が危ない目にあったほうがやばい。もう蜀は終わりかも知れない。
姜維が前線へ出る→魏の大軍が押し寄せる→以下略、となるわけだ。
「すまんな、でも仲権を一人放逐するのもなんだかなあ・・・」
「解った!解ったよ!! 俺も男だ、行ってやる!」
こうして、費恭を無理矢理納得させて、成都から二人は旅だった。
☆
そして。
魏蜀国境で見つめ合う、賈充・司馬炎と夏侯覇・費恭。
お互いウサギを持っているあたりも妙だが・・・・。
夏侯覇は費恭を背に庇う。また、賈充も咄嗟に司馬炎の前に出て手で庇うようにする。
「夏侯覇、あれ、知り合いかよ?」
「ああ。・・・むかーーーーしの、ふるーーーい。」
夏侯覇が言っている向こう側では。
「うわ!ホントに夏侯覇だよあれ! ・・・久しぶりだなー! おっさんになったなあ!」
たった6年でオッサンと言われる夏侯覇。聞こえなかったのが幸いだった。
「安世様、下がってください」
司馬炎も夏侯覇も考えたくないがお互い遠縁である。
夏侯覇と劉禅も実は遠い親戚なのだが、それを言いだすと本気で「人類皆兄弟」になるのでここでは避けておく。
平和主義者司馬炎は、なにも魏の使者として来ている訳じゃないし、ここで戦争勃発は避けたい。
賈充はどうでもいいと思ってる。安世さえ無事なら。
そして、夏侯覇も実は、今日に限ってはどうでも良かった。
もし出会ったのが郭淮か陳泰なら話は別だが。
「おい。」
「わかってます。」
さ・・・っと、賈充も夏侯覇も、同時に白い布を上げた。
「一時的平和協定、ということで」
「ああ。」
「あああああ!!!」
費恭が、司馬炎が持っていたうさぎに近寄ってさっと奪い取る。
「コイツ・・・間違いない!! おい、これ、子上うさぎだぜ!!」
その叫びを聞いて、司馬炎と賈充はぶはー・・・と吹き出しそうになった。いや、爆笑した。
幸い、そこに司馬昭はいない。
よもや、遠い蜀の地でそう呼ばれているとは。
子上うさぎ?・・・ってどんだけよ!と。
まあ、蜀は昭という名をオジギソウに付けたりする大臣もいるくらいだから、こういうのもありなのかもしれない。
ああ、もう、父上の代になったら間違いない、蜀は本気で攻められるだろうなーと、司馬炎は暢気に考える。
「コイツ・・・手紙付けてただろ?・・・まーったく、なんで魏になんか行くかねえ?」
「手紙?」
司馬炎が聞くと、費恭は頷いて。
「捕まったら姜維の家に届けろって、手紙を付けたはずなのに、おかしいな・・・」
「きっと取れたんだな。」
夏侯覇が言うと、「そうかもね・・・」と、費恭はそれで納得したようだ。何故司馬炎が持っているの?とかいう疑問は幸い、派生しなかったようだ。
だが、司馬炎にはなんとなく飲み込めてきた。
その手紙を、誰かがどこかで書き換えたんだ、と。
・・・いやあ、蜀はおもしろい人がいるもんだな~・・・ていうか、こんな子供にそこまで言われる父上ってどんだけよ・・・
「それにしても二回も捕まるなんて、お前どんだけだよ?てめえの名前の主のように、ふてぶてしく逃げろよな! いっそ躍ってみれば良かったのに! 誰か援軍に来てくれたかもなあ、あっはははは!!」
夏侯覇は苦笑する。賈充と司馬炎も笑いを堪える。天然で言われている司馬昭の悪口に。
実は費恭はちょっと気がついてる。でも、あえて言ってる。
司馬昭が追い詰められ山頂で雨乞いの裸踊り(事実は多少違うらしい)をしたということは、いろいろ尾ひれがついて呉蜀に知れ渡っているようだ。
「ほら。お迎えが来たぜ、行ってこい」
見ると、白いうさぎが遠巻きに見ている。
そして、噂の茶色い「伯約うさぎ」も・・・。
うさぎの親子&兄弟再会を見ている間、座って、お茶とお菓子でくつろいでいる。
この、大人であり男である彼等は、伯約うさぎに襲撃されるおそれがあるからだ。
姜維でさえ半殺しにされた伯約うさぎ。命名者は絶対に魏軍の誰かだ!と誰もが信じていたが、実は蜀の人間だということはあまり知られていない。
「安世殿、君の伯父上夫婦は元気かね?」
「ああ・・・。はい、元気そうです。・・・その弟夫婦も、相変わらずなかよしで元気そうですよ。」
「ん・・・・?」
賈充の頭に即座に浮かぶ家系図。
安世の伯父上夫婦、とは司馬師夫妻の事だろう。そして、安世がぴんときて答えた「弟夫婦」は、司馬昭の事ではなく、司馬師の妻・羊季瑜の弟・羊祜夫婦のことだろうと。
「そうか。仲がいいか。」
イイ婿を選んだなあ、と夏侯覇はしみじみ思う。
そして、あの姜維の娘達にもこのレベルのいい婿を選んでやらねば!いなければこの自分が!!・・・と、訳のわからない使命感に燃えつつ。
司馬炎が、賈充に得意げに言う。
「叔子殿はお優しいですよね。」
彼はしれっとして言った。
「夫の足を引っ張る妻など、存在価値は無いですね。」
「・・・・・・・」
司馬炎と夏侯覇は、顔を見あわせた。
・・・あるいみ、清々しいくらいやなヤツだな・・・・と。
「でも美人ならちょっと話は別ですねぇ・・・」
流石、妻の父親が死罪になったとき、流罪ですませたのはいいが、その一方で若い妻推定18才を娶ることになる賈充の言葉である。かといって、最初の妻を捨てるわけでもないのだが、その言い分が「熟女には熟女の魅力があるんですよ☆」である。どこのスケベオヤジかと。しかも「両方とも正妻ですよやだな~、喧嘩しないでください」という、博愛主義っぷり@西晋に至るまで。すごい精神力である。しかも意外に絶倫かもしれない。
「ところで。」
賈充は笑顔で。
「君は誰です? 夏侯覇のこちらでできたお子さんですか?」
「・・・私が蜀に来たのが4年前、この子はいま18歳だ。・・・なんかおかしいと思わないか?」
「ホント、脳みそ腐ってない?」
費恭の言葉に、賈充はにこやかに謝罪する。
「ああ、失礼。なんかあなた、あちこちで子供作ってそうですし。では、誰なんです?」
賈充としては、なんとなく姜維の子か、或いは費禕あたりの子ではないか、と思っていた。
・・・・が。夏侯覇はいたって真面目な顔で答えた。
「私の恋人だ。悪いか?」
「ちょ!! 仲権!! アンタなに・・・!!!」
キレる費恭に、夏侯覇は余裕の笑顔で言った。
「照れてるのか? がらじゃないなあ、可愛い奴め」
そう言って、殴りかかった手を掴んで抱きしめた。
「おやおや、仲良しですねえ」
「・・・・・・・」
笑顔の賈充に、司馬炎はただ呆然とするだけだった。
女にはマメ、スカートはいてりゃ15歳から80歳まで、とか言われた夏侯覇だったが、まさか男にまで興味があったとは。確かに稚児遊びというのはあるにはあるが・・・18才だろ? 他国に亡命してまで平然とすることではなさそうだ。しかも、高官の息子となど、勇者だ勇者! その勇気は蛮勇の類だがな!!
・・・小さい頃、あんまり遊んで貰わないで良かった・・・。
思わず胸をなで下ろす司馬炎。
まあでも、自分の父親だってそういう趣味もあることだしな、とそのまま聞き流すことにした。
「・・・で。どこのお子さんなんですか?」
「・・・オジギソウ・・・」
費禕の家の子なのね。はいはい、と司馬炎は納得する。
そうか、あんな若い男がいるのか。意外に結婚は遅かったのかなとかどうでもいい他人事に思考をめぐらす司馬炎。
あれだけ可愛ければ戦場ではもってもてだろうなあ、所謂「後方にも要注意」ってアレだよなあ? でも流石に費禕の子にそんな不埒なことする奴はいないわなとか、考えることの低俗さはBL雑誌愛読者に通じるモノがある。それが司馬炎。
だが、その不埒なことをしている真っ最中のオッサンが目の前にいる。
仕方ないので、司馬炎は一言言ってやった。
「あのー、仲権殿、そろそろやめた方が・・・」
「あ、そうだな。・・・ははは。じゃあ、費恭解放」
手を離すと、費恭は涙目で司馬炎を見ながら叫んだ。
「な・・・なんだよ!! 助けろなんて言ってないだろっ!!」
「ええ、じゃあ放置して良かったんだ?・・・仲権殿~」
「うわまじやめろ!! 絶対、ありがとうなんていわないからな!!」
費恭の怒りの混じった叫び声に、司馬炎は面白くなってくる。
「いえいえ、どういたしまして~」
「きー!!」
この反応はいいぞ、なんか凄い可愛い?・・・うわ、父上を笑えないなあ、私も・・・などと司馬炎が平和に思っていると、賈充が割り込んできた。
「はいはいはい、そこまで~・・・」
露骨にむっとする賈充。
「ほら、仲権殿も自分の恋人はちゃんと管理してくださいね」
そう言って、撤収準備をはじめたのだった。
平和的に別れてから、賈充が言った。
「うーん、あの子とは何か将来因縁がありそうな。・・・安世様、気を許してはいけませんよ!」
「へっ?!」
「・・・いえ、私の直感です」
「ああ・・・まあ確かに、なかなか良い感じだけどねえ・・・。」
「・・・男はダメですよ!」
「・・・いや、夏侯覇の恋人に手を出すような真似はしないよ・・・・。」
「恋人というのも口上でしょ。・・・安世様、素直ですねえ、あんな言葉を信じるなんて。」
でも、そんなところが可愛いですよあなたは・・・・という言葉を口には出さなかったが、そのときに浮かべた微笑に、司馬炎はぞくりと寒気がする。
そして無理矢理話題を逸らすことにした。
だが、最初に夏侯覇と会ったときに賈充が庇ってくれた事だけをいい思い出として無事帰るぞ!・・・と心の中で小さく誓いを立てながら、二人は馬に乗るのだった。
・・・あ、それともう一つ、費恭ね、費恭・・・おもしろそうな奴だなー。また会えるといいなあ・・・
えへへ・・・と言った顔で考えてると、賈充が睨んでくる。
「安世様、浮気する気ですか?」
「誰の何が浮気だ!!」
「この私というものがありながら・・・ええ、思い出してくださいね・・・」
賈充はにやりと笑うと、言った。
「私が影で何と言われているかをね?」
司馬昭の懐刀、これは良い方。謀臣、陰険ヤロー、アイツだけは怒らせるな・・・などといろいろ思い出し、ぞくっとする。
「あの人の父親がどうやって死んだのかも思い出してくださいね」
実は自分は無関係なのだが脅しておくに越したことはない。やっていない犯罪も脅すためには自分の関与を示唆してみる。
そして、案の定良い感じに騙される司馬炎。
「す・・・すみませんでした・・・・」
「大丈夫ですよ、大事な子上殿のご子息に、何にもしませんよ・・・」
にっこりと賈充は笑う。
その後、宿泊先では引きこもりになったりといろいろあったものの、賈充も司馬炎も、無事に洛陽に着く。
成都へ戻った夏侯覇は、さっそく姜維の家に寄る。
「ほお、国境でそんなことが。私は行かなくて正解だったな。」
「だろう?」
「ていうか・・・あのドブネズミ色のうさぎ・・・本当に洛陽に行ったんだ・・・」
呆れてため息。
「とりあえず平和的に別れたぞ」
姜維はほっとする。だが、司馬炎がやたら費恭に興味を持っていた下りを無視は出来なかった。
もし費恭の身に何かあったら、いや、そんなことしたら今度こそ大軍で魏を・・・・
「お父様、まだ謹慎中ですよ!」
「・・・お・・わ・・・私は何も考えていないぞ?」
姜維が笑顔で言うと、娘は食い下がった。
「いいえ、いま、やる気満々の顔でした。・・・これ以上、費恭殿にご心配かけさせないでくださいね!」
「・・・いや、心配はしてねーけど・・・」
費恭はぽつりと言う。
「・・・あれさ、司馬昭の息子だろー? あんな脳天気でいいのかね? しかも、あの家臣みたいなの・・・賈充だっけ? あんなあぶなそうな奴とよくへろへろ旅行なんか出来るよなあ・・・」
「なんだ、心配してるのか?」
夏侯覇が聞くと、費恭は真っ赤になって言った。
「なっ・・・馬鹿言ってるんじゃねえ!! 誰が心配してるんだっ!!」
怒って出て行った費恭を呆然と見送る二人。
夏侯覇は呟いた。
「・・・賈充にライバル見参・・・かねえ?」
そして洛陽。
司馬昭はぼろぼろになってよろよろ歩いている司馬炎を見つけた。
実は、賈充に何かされるのでは?!という恐怖のあまり睡眠不足が続いただけなのだが、司馬昭はニヤニヤしながら司馬炎に聞く。
「お、帰ったか。賈充に襲われたか? 痛かったか?」
「そんなことはありません! ていうか腕力は多分私の方が三倍はある・・・・」
司馬炎はふと、思った。
なんで自分の方が明らかに強いのに、彼が怖いのだろうか。
背だって自分の方が高いし、絶対に武器を持ったら負けない。なのに、何故?
「・・・まだまだ、鍛錬が足りない、そういうことですね・・・・鍛えようっと。」
司馬炎はそう言うと、司馬昭の下品極まりない質問は無視して調練へと出かけてしまった。
そばにいた司馬昭の娘(後の杜預の妻)は、低い声で司馬昭に笑いかけた。
「下品なギャグを無視されるって、哀しいわね・・・」
「・・・・・・・・」
なんとなく落ち込む司馬昭。
「父上もまだまだですね? さ、私も調練に行ってこようっと。お兄様待って~~」
ふふっと笑って立ち去る。
お前!女だろう!!・・・とかいう叫びは多分聞こえていない。
そして。
「公閭殿、お帰りなさい」
「はい、お土産の成都まんじゅう」
賈充は鍾会にまんじゅうの包みを渡す。
「これ美味しいんだよね」
「よくご存じで」
「前に費文偉さんにお手紙書いたら、お返事と一緒にいただきましたよ」
よくそんな毒入りっぽいのを食べますね・・・・とは言わなかった。鍾会には毒も効かなさそうだ。
そもそもなんで費禕に手紙を書くのか、そのあたりからいろいろ突っ込みたかった。
「旅行支度、なんの仕掛けもなくて残念でしたよ。安世様もなんかいちいちびくびくしていて、おもしろかったですね」
賈充の言葉に、鍾会は笑う。
「旅行支度にしかけなんて。あなただけならともかく、安世も一緒なのにそんな危ないことするわけないよ」
「おや、あなたも安世殿シンパなんですか?」
「・・・ふふっ・・・」
賈充の言葉に鍾会はにやっと笑った。
「珍しい、失言」
「え?」
「あなた “も”・・・・ね。けっこう本気っぽい。冗談ぽく見せてても、本心丸見え」
鍾会はひらひら手を振ってそこを立ち去った。
・・・やられた。
賈充は肩をすくめる。鍾会の高らかな笑い声が聞こえたような気がした。
おわり(2010.04.15)
あとがきは本日のブログで。
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