灰色うさぎの物語   国境で戦争勃発しない編 PartⅠ 


ある晴れた、初冬の日。
朝も早くから時の権力者(弟)の叫びが洛陽の一部地区に響き渡る。
「だーー! もうがまんならん!! 安世!」
「はい?」
「そのうさぎを元いた場所にもっていけーーー!!!」
道を通りかかった人は、は?と思ったであろう。「そのうさぎ」。
いま、司馬家には灰色の、こきたないうさぎ(注:洗ってあってもそう見えるだけ)がいて、それが司馬昭の気分を日がな一日逆なでしている。それにキレた司馬昭の叫びらしい。
そのうさぎは、魏蜀国境あたりに存在する(らしい)通常「うさぎ村」と呼ばれる場所から何故かこの洛陽の司馬家まで届けられてしまった。それを返してこいと言っているらしいのだが・・・
「何故私が?」
司馬炎はおかしいのをこらえて、わざと司馬昭の気を逆なでするように言った。ゆっくりと。
「この私が洛陽を離れるわけにはいかんだろうが!馬鹿かおまえは!!」
はいはい、少なくともうさぎにやきもちを妬くようなおばかさんよりはましだと思いますけどね。
そう、しみじみ思いながら「はーい」とだけ返事をする。
もちろん、話を聞きながら髪の毛の先をいじいじと触るのは忘れない。
通常の司馬炎はそんなことは絶対にしない。だが、司馬昭の気分を逆なでしようとしている今、わりと何でも思いつく不快な事はしてみようという魂胆。
「いじいじ髪の毛を触るなー!!! そんな長いだけの髪など切ってしまえ!!」
「嫌ですよ。自慢の髪を切るなんて、勿体ない。」
「私の言うことが聞けないのか!」
「うさぎは持っていきますからいいでしょう? 髪くらいで大の男がけちけちと言わないで下さいよ。いくら自分の髪が寂しくなってきたからって八つ当たりしないでください。」
「誰がだ!! 私の髪はまだまだ多いぞ!!」
はぁはぁ・・・めずらしく、息切れしそうな勢いで怒鳴っている。
司馬炎は父親が苦手である。が、最近は苦手さが極限状態に達し、そして達観してしまった。
今では怒鳴られても全然平気である・・・もっとも、司馬昭が怒鳴ることなど滅多に無いのだが。
そのあたり、自分はこの父親に似ている気がしてきたりもする。そういえば、司馬懿に怒鳴りまくられても司馬昭はひょうひょうとしていたなあ、などと思い出しながら。
「とりあえず行きますよ。行けば良いんでしょう。」
「わかればよい。」
頷く司馬昭に、横で笑いを抑えながら聞いていた賈充がここぞとばかりに口を挟む。
「でも国境地帯ですよねえ・・・」
わざとらしく心配そうに言う。
「安世様に何かあったら大変ですよ。」
「安世は別に蜀の人間に恨まれることはしとらんぞ。」
司馬昭が不思議そうに言うのを、「馬鹿かあんたは!」と言い返したい賈充。そしてあきれたように見る司馬炎。
魏の人間、それだけで充分恨まれる以前に・・・そもそも、司馬家の人間と言うだけで誘拐したり人質にしたりする価値はあるはず。
何故それがわからんのかと・・・・
「子上様、もし大猷様でしたらどうしますか?」
「大猷を一人で行かせるわけ無いだろう!! 何かあったらどうしてくれるんだ!!」
そこに、秋風が吹いたような気がしたのは司馬炎と賈充だけかもしれない。
・・・攸だとだめで、私だといいんですね、父上・・・
司馬炎は達観していて、ゆえに今更怒る気にもならない。
だが、賈充が食い下がる。
「安世様は長子ですよ! 何かあったら子上様の後継はどうなるんですか!」
賈充の叫びをよそに、一人、司馬炎は涼しく考え事。
そもそも、司馬攸はまだ一桁の年齢。一人で行かせられないしな。それに、末っ子というのは永遠に末っ子なのだ。
多分、司馬攸は20歳になっても一人でどこにも行かせられない子なんだろうなあ、と。
そういえば、祖父の司馬懿も死ぬほど可愛がっていたし。・・・三文安の土壌は既に出来上がっている。
・・・ま、確かに攸は可愛いけどね。私だって付いていきたいさ。
などと、平和的解釈中の司馬炎の耳に、とんでもない司馬昭の一言が入ってきた。

「なら公閭、お前が安世と一緒に行け!」

この時の司馬炎の心境。秋風五丈原から一変、北辺の大ブリザード吹き荒れる地帯のような心持ち。
そして賈充の気持ちは、南方の常春の島状態となった。そんな島が存在するのかは別として。
どうやら、この言葉を引き出すのが賈充の目的だったらしい。
「こ・・・この私が安世様と一緒に? よろしいんですか? ドキドキ」
「父上! そ・・・それだけは・・・」
「煩い! 命令だ! いけええええ!!!!」
ひゅるるるるる・・・・・・叫びで一周され、ブリザードは治まらず。
司馬炎は別に、賈充が死ぬほど嫌いなわけではない。
鍾会も苦手だが、だが賈充もちと苦手なのだ。
鍾会のようにはっきりわかるセクハラはしてこないが、どーも、賈充はわからないようにセクハラというか、いつの間に相手のペースに乗って全裸にされてそうな、そういう恐怖感があるのだ。
「・・・ち・・・ちちうえ・・・・」
縋るように目に涙をためて立ち上がった司馬昭を見上げるが、解ってか、司馬昭はにやにやしながら仕返しをしてきた。
「公閭は優しいなー。お前についてわざわざ国境の危険地帯に行ってくれるんだ。感謝しろ。」
「あ・・・・あうあう・・・・・」
何も言えない司馬炎と幸せいっぱいの賈充を置いて、司馬昭は部屋を出ていった。


そもそも、司馬昭の怒りの原因になっている灰色うさぎ。
通りすがりの人物がわざわざ司馬家に届けてくれたうさぎ。理由は「洛陽の司馬家に持っていけ」と書いてあったから。
司馬家の名を聞いてびびらない魏国人はいない。無視したらどんな目に遭わされるか。
磔獄門、腰斬、鼻削ぎ耳削ぎ、串刺し、火あぶり、いろいろやばい想像が脳内を駆けめぐった挙げ句、思い切って洛陽に届けてきたのだろう。その心中はきっと当の司馬兄弟には計り知れない。
でも実は。
それは蜀の某将軍の家族の軽い気持ちのイタズラで、別に司馬昭を陥れようとかそういう手の込んだモノではない。
まして、司馬昭の大ファンでプレゼントしたわけでもない。
むしろ、どうしても何か贈るなら飢えさせた肉食獣とか猛禽とか、そういうことを考えるのが姜・・・じゃなかった、某将軍の家族である。だが、そこまで面倒なことは考えるだけで精一杯。
本当のところ、ただただ数奇な運命のもとに生まれついた、或いは単なるおまぬけな灰色のうさぎが成都と洛陽の間を行ったり来たりしたわけで。
きっと、その手紙を書いた当の本人は今頃そんなことも忘れて、のうのうと蜀で麻婆豆腐でも食べながら平和に暮らしていると思う。
とりあえずそのうさぎが、今、司馬昭の血圧を日々上げていっているという意味では、蜀の天然策略かもしれないが。
そのうさぎはどうやら、魏蜀国境の「うさぎ村」というところにいたらしい・・・と、そこまでは持ってきた通りすがりさんに聞いていたのだ。
ようするに、そこへ返してこい、それだけの話。

そのうさぎが、何故そこまで司馬昭を怒らせたのか。

「子上様最近機嫌悪いんだよねえ。」
鍾会が顎に手をついて、となりにいた陳泰に愚痴る。
だが、彼は冷たく。
「あなた何かしたんじゃないですか?」
「最近浮気はしてないですよー。」
「・・・・・・」
信用できるか!というような目で見る。だが、彼は理由自体を知っているようで睨みつつも軽く笑った。
「なーに、その目。」
「・・・べつに。・・・それに機嫌悪いのはうさぎのせいですよ」
鍾会に話し掛けられるたびに胃がズキズキしていた陳泰にすれば、にらみ返すなんて大進歩である。
どうして司馬昭がキレるのか。陳泰はここ2ヶ月ほど三日と開けずに司馬昭に愚痴られ続けたおかげで知っている。司馬昭をきれさせた灰色うさぎは、王元姫にはよく懐いたのだ。
「あら、かわいいうさぎさんね」の一言がきっと嬉しかったのだろう。だが、それ以上に悪かったのは、司馬師に会うなり、司馬師にべったり懐いてしまったのだ。
どうやら一目惚れしたらしい。
また司馬師も司馬師で、「かわいいなあ、お前」と灰色をご寵愛だったのだ。じゃあ引き取ってやれよ!と世間は思うが、司馬師には「陛下のうさぎ」という最愛の思いうさぎがいるため、それは出来なかった。セカンドには手を出さないというあたり、司馬昭や鍾会にくらべて立派な心がけの男である。
それでも、陛下の灰色うさぎを密かに羨ましく思っていた反動がどうやらそこに来たようで、しょっちゅう司馬昭の家に来てはうさぎで遊んでいたため、一時は「王元姫とできてるんじゃね?」という噂まで立ったくらい。(噂を立てた諸葛誕は遼東に左遷されました)
「よく子上様、そのうさぎと公休殿を殺せって言わなかったね。」
「いくらなんでも大人げないと思ったのではないですかね?」
陳泰はそう言って、ため息をついた。
「そもそも公休殿だって、冗談でも言っていいことと悪いことが・・・いや、悪気無いんでしょうけど、彼の言葉はうのみにする人、多いですからねえ?諸葛マジックですね」
「いんじゃない? どうせ遼東で新しい女でも作って楽しくやってる気がするよ。遼東の女性は美女が多いそうですよ」
鍾会はにやにやして言う。諸葛誕が痛い目にあうと何か楽しいようだ。陳泰はいかにも嘆かわしそうに呟く。
「まったく、うさぎ一羽に・・・・」
「ていうかさ、その一羽の為に息子を蜀に行かせるとかってどうよ? 玄伯殿行ってあげたら? あなたなら道案内いらないでしょうし」
鍾会が言うと、陳泰があきれたように言う。
「私が行ったら戦争になっちゃうでしょう」
そりゃそうだ。鍾会は納得する。
「これはこっそり行くのが正解ですからね」
「なんで私じゃないんだろう?」
鍾会が不思議そうな顔をすると、陳泰は彼の頭をコン、と叩いた。
「どれだけ目立つか、自覚してない?」
「そりゃあ、私は自分で言うのもなんだけど可愛いし? 綺麗だし? 目立つかもしれませんけど・・・」
「・・・自分で言ってるじゃないですか。あなたには隠密は向きませんよ」
陳泰はくすっと笑うと、お先に、と言って部屋を出て行った。
「・・・って、待って。私も帰ります・・・」
鍾会は慌てて後を追っていった。


その晩、家に戻った司馬昭を待っていたのは王元姫のこの一言。
「安世を国境に行かせるって本当?」
王元姫が司馬昭に聞く。
「ああ。」
「うさぎさん、帰しちゃうの・・・?」
問題はそこじゃない。安世を国境に行かせることだろ?あん?・・・と、司馬師がいれば突っ込んでこの弟夫婦はぼこされたかもしれない。司馬師は、うさぎの次に安世を可愛がっているからだ。
だが、そこに突っ込む人間はここにはいない。
「まあな。うさぎも元いた世界にかえりたかろう。」
「・・・そうね、そうかもね。」
寂しそうな顔をする彼女。
「そんな顔するな。お前には血統書付のいいうさぎをいくらだって買ってやるぞ。だからあんな薄汚い、雑巾色のうさぎなど野に放とう。」
司馬昭はすっきりとそう言い切った。
国境のウサギ村とやらに返す、というのが残された良心なのかもしれない。
「そうね。じゃあ今日はゆっくりうさぎさんと寝るわ」
彼女はそう言うと、うさぎを抱いて部屋を出て行った。
・・・あれ?・・・私と・・・あれれ?
司馬昭が何か言おうとすると、王元姫の腕の中からくすっと笑ったようなうさぎ。
「・・・・・・・!!!!」
ムカムカするが、彼女の腕の中に居る限りはどうしようもないのであった。


翌日。賈充は鍾会の家でお茶を飲みながら無駄話の最中だった。旅行前にお互い引き継ぎをすることでもあるのかは解らないが、多分、平和で暇なのだろう。
「安世様と二人っきりで蜀・・・蜀なんて野蛮な田舎とか思ってたんですけど、デートと思うと天国ですねえ」
「へーえ? 公閭殿って、男でも女でもいいんだ、節操ないですねー。」
鍾会のこの言葉。普通だったら「アンタにだけはいわれとうないわ!」という台詞だが、幸せいっぱいの賈充は流す。
「違いますよ。安世様がいいんです。他の男なんて・・・ふふふふ・・・・」
「・・・不気味・・・・」
長身で体格のいい司馬炎にどこにどういう妄想を抱いているのであろうか、賈充はにこにこして言った。
「冗談ですよ。そういう態度で怯える安世様が面白いんです」
「なんだ、冗談か。まったく悪趣味だね・・・」
鍾会は苦笑いを浮かべながら、賈充に荷物を渡す。
「まあでも、ほら、旅行グッズ揃えたからさ、ま、楽しんできてよ。」
「すみませんねえ、あなたにこんな雑用をお願いして。」
「・・・ひまだからいいけどさ。・・・でも、奥さん、帰ってくるまでに機嫌が直ってるといいねえ。」
どうやら、奥方は幸せいっぱい賈充の出張を「不倫旅行」とでも思っていて、実家に帰ったらしい。不倫旅行というのもあながち間違いではないのだが、少なくとも賈充の妻がそこまで怒るような事ではないはずなのだ。ちなみに怒っている方の妻は当然郭槐である。もう一人の正妻、李媛は「蜀ですか?! 捕らわれてしまうとよろしいですわね☆」と実にありがたいお言葉を贈ってきた。
賈充もここのところ忙しく、旅行の支度を暇そうに猫と遊んでいる鍾会に支度を頼んだ次第という。
なお、郭槐実家では郭淮が凄い勢いで怒ってるという話もちらほらである。怖くて誰も近付けないのだ。しかも、蜀になど行くなら俺がー!!・・・とどえらい騒ぎらしい。ここのところ病気で伏せっているという噂を聞いていたので油断していたが、彼が本気で国境に出てきてもそれはそれ、陳泰と同様にやばいので一応鍾会が理由は説明をしてきた。

郭淮は、顔色は悪いものの、礼儀正しく無駄話をしにいった鍾会に、実に礼儀正しく受け答えてくれる。
礼儀正しい無駄話というのは、実は鍾会の人生の三分の二を占めていたりする。でも、こういうときには案外役に立つのだ。
歴戦の武将の迫力に圧倒されるどころか鍾会は「ひゅう♪かっこいい♪」とうっとりしながら、賈充の代わりに言い訳をする。
「何と。では今回は、決して浮気とか不倫とか、そういうからみではないのだな?」
「・・・公閭だってあなたに念を押されたくはないと思うけど、そういうことなのですよ」
鍾会はにこやかに言うが、郭淮はむっとして低く言い返す。
「私は浮気旅行などしたことはない!」
「・・・夏侯覇と女の取り合いをしたとかって噂されてる人に力説されても、あんまり説得力無いなあ・・・ 」
女の取り合いは真実かは解らない。でも郭淮は普通にもてそうな男である。むしろ、長安にいても一人でしたよ?とかいわれでもしたら「大丈夫ですか?!」「どこか悪いんじゃ?!」と言われるのがオチ。この時代、女なんていればいるほど自分の出世と健康の証明だ。女の取り合い、けっこうな話である。その女は女冥利に尽きるだろう。・・・実在するかは解らないが。
だがそこまで言われた彼も負けてはいない。
「子上殿の寵を巡って正妻と争うような御仁に言われたくはない」
郭淮には鍾会の嗜好は理解できないらしい。戦場ならともかく、何故普通に暮らしていて君は男となのだ?!とでも言いたそうな郭淮には笑って対応しておいた。
「あなたもその中に加わりたいとか? いいですよ! 年上大歓迎!」
「・・・頭痛がしてきたよ、私は」
郭淮は頭をかかえる。鍾会は話を締めくくりに入った。
「とにかく。公閭はべつに女性とどこかに行く訳じゃありません。あなたの猟奇的な姪御さんによろしくご説明くださいね!」
「解った。槐には家に戻るように言おう」
「頼みますね」
にっこりと笑う鍾会にぞくりと寒気を感じ、それでもさすが郭淮、最後までそれをおくびに出さず見送る。
「ところで、夏侯覇と女の取り合いしたって噂は本当なんですか?」
「・・・なぜだ? 何故そんなつまらない事が気になるんだ?!」
「いえ、個人的には男の取り合いの方が面白いんですけどね・・・仲権殿はどっちもいけたしね」
「・・・いずれ機会があればゆっくり話してやりたいが、そう期待するような話でも無いぞ」
そう言って、郭淮は顎に手をやる。・・・そう、覚えている。確かにアレは取り合いだ。女の取り合い、そう言われても結構である。結構なのだが、一体どんな噂が流れているのだろうか。・・・女は女でも・・・
しかも結局、横から第三者に奪われたようなものだし・・・
「じゃあいずれ、お願いしますね! 今日はお邪魔しました。ご病気が治るといいですねえ」
「君のせいで悪化したよ!!・・・では、お気を付けて」
自分のことを嫌がってるんだろうなあ、そう気づいた鍾会は、わざわざにこにこしてから出てきた。

「伯済殿の家はおもしろかったですよ。ご病気だそうですけど、早く快癒されるとよろしいですね」
鍾会はくすっと笑った。
「あなたが余計に具合を悪くさせたんじゃないですか?」
「ま・さ・か!!」
鍾会は心外だというように大げさに驚くがそれがかえってわざとらしい・・・
「あの人いないと、玄伯殿が前線に行っちゃうでしょ? 日常の楽しみが無くなる・・・」
鍾会の日常の楽しみとはなんぞや・・・賈充は心の中でだけ呟いた。
「では、私はこれで。・・・旅行カバンの中身、確認しないの?からっぽで錘だけかもよ?」
「・・・あなたを一応は信頼しておきます」
「勇者だね。・・・じゃあね。お土産はアレで、よろしくね!」
そう言うと、鍾会は去っていった。



そして、旅立ちを明日に控えた司馬炎はベッドの上でのたうちまわっていた。
「いやだよー!! 賈充と一緒なんてー!! それもこれもこのうさぎの・・・・」
司馬炎がうさぎの耳を掴もうとすると、ぎろりと睨む灰色のうさぎ。
目つきは非常に悪い。
だがこいつは人を見るようで女子供と、そして何故か司馬師にはよく懐くのだった。毛もさわるとふかふかで、雑巾色と司馬昭は馬鹿にしているが、司馬炎は実はこの手触りが気に入ってたりする。
「・・・ま、いっか・・・」
司馬炎はそう言うと、うさぎを籠に入れようとする。
心優しい彼は、一応うさぎ籠にワラをしいてみたりしたのだが・・・・
「・・・綿がいい?」
うさぎは司馬炎のふかふかの布団の上でぬくぬくのびのびしていて、籠にはいる気配は無い。
「あとで貰ってきてあげるよ。じゃあ一緒に寝ようか?」
それに対しては相当不服そうだったが、ぬくぬくの布団の中でとりあえず気持ちよく目を閉じた。
司馬炎もいい年してうさぎと就寝・・・一万人ハーレム男の若い頃は、案外清潔だったよう。旅を控えて、ふつうは彼女とかと別れを惜しみたいものではないのだろうか? 
そう明日からは長旅である。
・・・しかも、賈充と一緒。 あの賈充のペースで、どこまで何をさせられるのか恐すぎる。
「はーあ・・・・。どうせだったらカワイイ女の子と旅したいよなあ・・・」
そういう妄想じたい、実は多少方向性が違うだけで賈充と大差ないということには気がつかない。
どうせなら、一人で行くと言っておいて、司馬昭の愛人でも妾でも引っ張り出して一泡吹かせてやれば良かった!・・・と思ったが。
・・・帰る場所が無くなるな、それは。
その程度の良識はある。
そもそも、あまり女に執着しない司馬昭に一泡吹かせるのは無理だ。真顔で、「お前、異常だな」と言われるのがせいぜい。
或いは「そんなにほしけりゃやるからどこか行って帰ってくるな!」と言われるだけだ。
やっぱり、鍾会か母でないと・・・・。
とはいえ、鍾会を連れて行けば何をされるかわかったものじゃない、自分が危険だし、母を連れて行って何か危険があったらと思うとそれだけは出来ない。
「ほんと、父上ってつまんない男だなー。ああなったらやだなあ・・・・」
つい呟くと、うさぎがこくこくと頷いた。
「なんだ、お前、わかるのか・・・。やだよなあ、あいつ。」
深く、こくりと頷くうさぎに本当に通じているのかは不明だ。
実はうさぎには違うように聞こえてるのかもしれないのに。

出発は明日、司馬炎は夜更かしもせずそのまま床についた。
明日からは楽し・・・くない、しかも目立ってはいけない、見つかってもいけない国境行き。With賈充。なんという恐怖だろう。
全てはこのうさぎのせいなのだが、それに気づかず眠る、司馬炎だった。


   
  PARTⅡへ続く


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